英語が話せるから学生に英語教育を施せるかと言えば、それはまた別の能力であるし、
英語の読み書きができるから翻訳ができるかと言えば、それもまた別の能力である、
というお話です。
1. 「英語を話す能力」と「英語を教える能力」
1-1. 必要とされる視点の違い
英語を話す能力: 自分が使いたい英語を、ある程度スムーズに口に出せること。単語力や文法知識、発音などが主な要素となり、会話の流れやニュアンスを理解し、適切に反応できる力が求められる。
英語を教える能力: 相手がどこでつまずくのかを分析し、その人に合わせた教授法を用意し、理解度を確認しながら段階的に伸ばすサポートをする力。
具体的には「学習理論」や「指導法」「心理学」「コミュニケーションスキル」など、言語の運用能力以外の要素が非常に重要になる。
なぜ「英語を話せる」だけでは十分ではないのか
自分が当たり前にできることを他人に説明する難しさ: 母語話者あるいは流暢に話せる人ほど、意識せずに身につけている知識が多いため、どこで教わる人がつまずくのかを想像しにくい。
体系立てて教えるための知識や技術が必要: 英文法や語彙の使い方をただ「経験則」で教えるだけではなく、「初心者にはこれを先に伝えた方が理解しやすい」「レベルに合わせて段階的に練習を組み立てる」といった専門的スキルが必要。
1-2. 教師として必要な別のスキル
学習者の心理的サポート: 外国語学習はモチベーションが大きく学習成果に影響する。学習者が自信を失わないよう配慮する・学習意欲を刺激する・成功体験を与えるなど、対人的な技術も重要。
ゴールの設定と評価: 学習者がどのレベルに到達したいのかを把握し、適切な目標を設定したうえで進捗を評価・フィードバックするスキルが求められる。
したがって、英語を「話す」行為と英語を「教える」行為は、目的や必要とされる知識・スキルが根本的に異なるため、前者ができても後者ができるとは限らない。
同様に、
2. 「英語の読み書きができる能力」と「翻訳ができる能力」
2-1. それぞれに必要な主な要素
英語の読み書き能力: 英文を正確に理解したり、自分の考えを英語で表現したりするための文法知識や語彙力、読解力、作文スキルが中心。
翻訳能力: 原文に書かれている内容を、別の言語(日本語など)に正確かつ自然な形で表現する力。単語や文法を直訳するだけでなく、文脈やニュアンス、読者の背景知識を考慮して意味を「再構築」する必要がある。
なぜ「英語の読み書きができる」だけでは十分ではないのか
文脈・背景の考慮: 例えば技術文書なら専門用語を正しく置き換える知識が、文学作品なら文体や作者の表現意図を活かす工夫が必要。単に読めて内容を理解するだけでは、不十分な訳になりがち。
言い回しの自然さや文化的差異: 原文をそのまま訳すると不自然な表現になったり、誤解を招いたりすることが多い。日英・英日いずれの場合も、互いの文化的背景や慣用表現などを踏まえ、「相手がどう受け取るか」を考慮した言い回しに調整する必要がある。
2-2. 翻訳特有のプロセス
解釈と再構成: 翻訳では、原文の真意を解釈したうえで、ターゲット言語の文章として成立するように再構成する。これには読解の深さだけでなく、ターゲット言語の表現力や文体的センスが問われる。
専門分野の知識やリサーチ: 特定の分野を扱う翻訳では、その分野の固有の概念や用語を理解し、正確に対応する言葉を選択しなければならない。場合によっては、訳語を調べたり、クライアントと相談しながら用語を統一するなどの作業も必要になる。
このように、英語を読み書きできること自体は「資料の内容を理解する」力にとどまりがちだが、翻訳者としてはその内容を正確かつ自然に「表現し直す」技術が問われる。ここで求められる能力は、語学力の延長線上にあるが、より高度かつ別種の専門性といえる。
3. なぜ「別物の能力」なのか
目的の違い
「話す」場合は自分が伝えたい内容をどう英語で表現するか。
「教える」場合は学習者の状況を把握し、理解を深めさせることが目的。
「読み書き」では英文の理解と英語によるアウトプット。
「翻訳」では読み手に向けて別言語で適切に伝えるための再構築。
必要な知識・技術の違い
「話す能力」は言語運用力が中心。
「教える能力」は教育学、心理学、教授法などの知見が必要。
「読み書き能力」は精読・正確な文法・語彙力が中心。
「翻訳能力」は解釈と表現力、ターゲット言語の文章構築スキル、専門分野の知識などが必要。
相手や文脈に合わせる必要性
「話す・読む・書く」は個人の言語活動が中心。
「教える・翻訳する」は受け手に伝わる形へ“調整”する工程が必須で、そのための配慮・工夫が必要。
これらの理由から、いずれの組み合わせも別個の能力と考えられるのです。
そのうえで、教育の能力・経験を得てスーパーティーチャーになるも良し、翻訳の能力・経験を得てスーパー翻訳者になるも良しです。
当社では、スーパー翻訳者に限定せず、翻訳者を募集しています。
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